彼と和真さん

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彼と和真さん

「おはようございます」和真さんの元気な声が玄関から聞こえてきた。 「ずいぶんと早起きだな。まだ五時前だぞ」 ふぁ~~とあくびをしながらぴょんと跳ねた髪を手で直しながら彼が玄関に向かった。 「おはよう和真。朝から元気だな」 「寝るにも寝れなくて散歩ついでに寄りました」 「新婚なんだ。四季のそばにいてやれ。四季が起きて隣に和真がいなかったら不安がるだろう」 「それはそうなんですが………」 罰が悪そうに苦笑いを浮かべながら前髪を掻き分ける和真さん。 「四季の寝顔があまりにも可愛くて。何時間でも見ていられるんです。ただ、理性を保つのが大変で……」 まさか朝から惚気話を延々と聞かせられることになるとは思っていなかった彼。 「玄関先で立ち話もアレだ。中に入れ」 話しが長くなると踏んで家の中に招き入れた。 「はい。お邪魔します。うわぁ~~ビックリした」 和真さんが驚くのも無理がない。 望実さんの遺影を抱き締めた譲治さんが目の前に立っているんだもの。 「譲治も早起きだな。どこに行くんだ?」 「散歩」 「そうか。紫陽花が咲いているから見せてやれ」 譲治さんはにこにこしながら頷くと玄関の外に出た。 「おい譲治、靴がびっこたっこだ」 彼が気付いて声を掛けたけど譲治さんの耳には入らなかった。
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