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「あらもう帰るの?もっとゆっくりしていってもいいのよ」
着物の上に白い割烹着を着た紫さんがコーヒーを運んできてくれた。
「紫さんありがとうございます。四季がそろそろ起きるころなので帰ってみます」
「あら、そう。残念だわ。度会も和真さんに囲碁の相手をしてもらえると喜んでいたのに」
「すみません」
頭を下げようとした和真さんの手をそっと握る紫さん。
「和真さん、謝る必要も、頭を下げる必要もないわ。いつか新婚のお嫁さんを連れて遊びに来てね。いつでも大歓迎よ。車椅子だからって遠慮はしないでいいからね」
「はい。紫さんありがとうございます」
「あっ、そうだ!」
何かを思い出したみたいでぱちんと両手を叩く紫さん。
「来年には赤ちゃんが産まれるんでしょ?それならうちで床上げまで過ごしたらどうかしら。ヤスの娘なら私たちにとっては孫。部屋も開いているし、玄関にはスロープをつけて和室を洋間にすればいいし。それがいいわ」
「紫さん、気が早いですよ」
「あら、そうかしら?一年なんてあっという間よ」
紫さんはすっかりその気になりノリノリになっていた。和真さんのほうが戸惑っているようだった。
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