彼と真山さん

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「未知、聡太を頼んだ」 僕に聡太くんを渡すと、脇目も振らず真っ直ぐに橘さんのところに向かうと正座して、額を畳に擦り付けながら深々と頭を下げた。 「頭を下げる相手が違いますよ、真山さん。一に遥琉、二に鞠家さんを立ててもらわないと困ります。笑い者にされますよ」 「あんた弁護士だろ?菱沼組お抱えの」 「それは昔の話しです。今は未知さん専属ですよ」 「そうなのか?」 寝耳に水だったのか驚いたような声を出す真山さん。 「法律のことは小難しいからさっぱり分からない。橘ならどうにかしてくれると思ったんだ」 「婚姻届は出したんですか?」 「出しに行って予想外のことが起きた」 「何かこみ入った事情があるみたいですね」 「あぁ、そのことに関しても橘に力を借りたいんだ。結婚すると口約束してもそんな約束をした覚がないと喜代子に言われたらそれまでだろ?だから覚書を書いて卯月の兄貴に預かってもらおうと持ってきた。カシラや渋川、それに宇賀神組の連中は信用ならない。でも卯月の兄貴なら信用出来る」 真山さんはいつになく真剣な眼差しで橘さんをじっと見つめた。 「柚原さんに焼きもちを妬かれますから、そんなに見つめないでいただけますか?」 橘さんが困ったようにくすりと笑った。
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