慶悟さん

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慶悟さん

一人前のヤクザにしてくれと事務所に押し掛けてきたのは四季さんと岩水さんと同じ児童養護施設出身の男性だった。 「中学校を卒業後、警察の厄介になることが多くて、職を転々としたそうです。十七歳の時に保護司の紹介で大工の棟梁に弟子入りしたそうですよ。この五年、ずっと四季さんと岩水さんを遠くから見守っていたそうです。二人を守るために自分に出きることはないのか、どうしたらいいか悩んだ末、ヤクザになることを決心したそうです」 「遥琉さんはなんて?」 茶碗を洗う手を止めて橘さんを見た。 「目は口ほどに物を言うという言葉があるように、目を見れば嘘を付いているかどうか分かります。彼の目は真剣そのもので二人に対する深い愛情を感じたそうです。親方みたいな大工の棟梁になるという夢を捨ててまで二人を守りたいという心意気に押されまして、とりあえず事務所で電話番をしてもらうことにしたみたいです。いずれは年が近いヤスさんか佐治さんかミツオさんが面倒をみるようになると思います」 ミツオさんは洌崎組の構成員だった。組が解散したあと再就職先がなかなか見付からず途方に暮れていたミツオさんに彼がうちの組にこないか?と声を掛けて手元に引き取った。
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