慶悟さん

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ー槇島といい、渋川といい、真山といい、どう謝ったらいいか。度会すまない。卯月さんに話しがあるんだがー 「宇賀神久し振りだな。卯月は野暮用があって事務所にいる。卯月の弟で良ければ電話を代わるが」 弟と聞いてギクッとする宇賀神さん。 「千里(会長)の伴侶じゃないほうだから、そんなに緊張するな」 ゲラゲラと笑いながらスマホをひろお兄ちゃんに渡した。 ーあ、あの、えっと、そのー 宇賀神さんのほうがひろお兄ちゃんよりうんと年上なのにガチガチに緊張していた。 その日の夕方、モニター越しに平蜘蛛のように深々と頭を下げたのは宇賀神さんだった。どうしても彼と話がしたいとひろお兄ちゃんに頼み込んでいた。久し振りに見る宇賀神さんは頬が痩けて、げっそりとやつれてまるで別人のようだった。 「宇賀神さん久し振りだな。最近顔を全然見ないから心配していたんだぞ。元気そうで良かった」 ー空元気だ。逆流性食道炎になるわ、一週間で髪が真っ白になるわ、円形脱毛症になるわ踏んだり蹴ったりだー 「渋川と真山の痴話喧嘩はなにも今にはじまった訳じゃないだろ?」 ーそれもそうなんだが……ー 宇賀神さんがはぁ~~とため息をついた。 「用件はなんだ?痴話喧嘩くらいでわざわざ連絡を寄越さないだろ?」 ー卯月さん、裕貴さん、実は………ー 宇賀神さんが紙を広げた。 壁に耳あり障子に目ありだ。本部になぜか全部筒抜けになっているから迂闊なことは言えない。真山さんがそんなことを漏らしていたことをふと思い出した。 モニター越しに一言も交わさず筆談で話す三人。 ー卯月さんと裕貴さんところみたく部下が優秀なら後顧の憂いなく隠居出来るんだがなー 宇賀神さんが寂しそうにぽつりと呟いた。
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