那奈姉さん

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腑に落ちないことがあるのか彼の表情が固かった。 「なぁ福井、さっきからずっと気になっていることがあるんだが」 ーなんだ?改まってー 「なんで"さん"付けで呼ぶんだ?お前のほうが俺より年上だろ?今まで呼び捨てだったのに。おかしくないか?」 ーそうか?ー 「とぼけんな。それに解せないのは、なんで目を合わせようとしないんだ?やましいことがあるからじゃないのか?」 ーある訳ないだろー 「嘘をついたり、都合の悪いことになるとお前はすぐにそうやって項を右手の中指で掻く癖があるだろ?」 無意識のうちに項を掻いていた福井さん。彼に指摘されそのことに気付き、慌てて右手を項から離した。 「今の今まで一回も連絡を寄越さなかった那奈が電話を掛けて来た時点で何かあったと考えるのが普通だろ?裕貴が福島にいることは、本部の幹部や龍一家の構成員に聞けばすぐ分かることだ。違うか?」 矢継ぎ早に質問する彼。最初は余裕の笑みを浮かべていた福井さんだったけど、だんだんと追い詰められて、ついに観念したのか何があったかポツリポツリと話しはじめた。 「無理に都会暮らしをしなくてもいいんじゃないのか?田舎暮らしもなかなか悪くないぞ。借金で首が回らなくなる前に、茨木さんの知り合いが関東近郊にいる。どうだ?彼も元ヤクザだ」 黙って話を聞いた彼。苦しい内情を知り、お祖父ちゃんの知り合いを福井さんに紹介した。
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