那奈姉さん

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「茨木さんに頼んでおいたぞ」 「いつの間に連絡をしたんだ?」 「茨木さんに頼まれて子どもたちの写真をほぼ毎日送信しているんだ。茨木さんも口には出さないが福井と那奈のことを心配していた。ヤクザをやめても銀行口座を作れないし、背中に彫った牡丹の刺青も消せないからな。しかも福井は前科者だ。クスリの売人をやっていないか、昔の悪い仲間とつるんでいないか今もサツから疑われている」 「兄貴にまた借りが出来たな」 「裕貴、東京に帰ったら福井の話を聞いてやってくれ。それで貸し借りはなしだ。有紗と愛珠を分け隔てなく可愛がりたいのに、茂原の影がちらついて有紗をどうしても可愛いと思えないそうだ。いつか手をあげるんじゃないか、見えない恐怖に怯えていたときに那奈からもう一人子どもが欲しいと言われたみたいだ」 「赤ん坊が出来れば有紗の興味はそっちに移る。誤魔化せるとでも思ったのか。親になるというのはなかなか難しいな」 「あぁ、そうだな」 彼とひろお兄ちゃんが膝を突き合わせ小難しい話しをしていた。話しに夢中になっていて橘さんが茶封筒を手に二人の斜め後ろに座っていることに全然気付いていなかった。教えてあげたほうがいいかなと思い声を掛けようとしたら、 「そっとしておいたら?」 心さんに止められた。
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