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「紅鳶様の背中を流してみたい…です」
その瞬間、紅鳶の表情が変わった。
いつもよりも明らかに目が大きく見開かれ、言葉を失っているような感じだ。
アオキはハッとすると、慌ててまくしたてた。
「あ!す、すみません!やっぱりいいです!忘れてください!さすがにお風呂くらいゆっくり入りたいですよね!!」
何でもしてくれるとは言ったが、流石に風呂まで押しかけるなんてしつこすぎるだろう。
アオキの方は四六時中紅鳶のそばにいられたら幸せ以外感じないが、紅鳶が同じ気持ちとはかぎらない。
浅はかな自分の考えに嫌気がさす。
どうしよう、不快な気持ちにさせてしまった。
せっかくの休みなのに。
アオキは青ざめなら項垂れ、もう一度すみませんと謝る。
すると、柔らかな声とともに頭をくしゃっとなでられた。
「謝る必要はない」
「え…?」
「すまない、そんな事でいいのかと思わずびっくりしてしまった。もっとアオキの得になるような要求を想像していたから」
アオキを見下ろしながら紅鳶が眉を下げて笑う。
要望が迷惑になっていないことにホッと胸を撫で下ろしながら、アオキはキッパリと言いはなった。
「紅鳶様の背中を流すことは俺にとって得でしかありません。やらせてください」
「わかった。お前がしたいのならお願いしよう」
紅鳶の快諾から数十分後。
アオキはいつも念入りに磨き上げている風呂に
たっぷりの湯を張った。
そこにコップ三杯くらいの日本酒を注ぎ込むと、日本酒風呂にする。
日本酒が含まれた湯は普段よりも柔らかい湯になる。
日本酒風呂には血行を促進させる作用があり、冷え性や肩こり、腰痛の改善をもたらしてくれるのだ。
これで紅鳶の疲れを少しでも癒したい。
「紅鳶様、準備ができました」
アオキは浴室の中から、脱衣所に待機している紅鳶に声をかけた。
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