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ある日の午後。
苺はぶつぶつと文句を言いながら廊下を歩いていた。
「なんでまた俺まで行かなきゃなんないわけ」
目的地は楼主のいる部屋。
もちろん待っているのはお咎めである。
数日前、双子の兄である菖蒲がしずい邸に潜り込み(セキュリティー上どうやって潜り込んだのかは謎)しずい邸の男娼を襲った。
間一髪のところ楼主に発見され大事には至らなかったが、見つかるのが遅かったらしずい邸の男娼の童貞は奪われていたかもしれないと聞いた。
菖蒲はとにかく奔放だ。
淫乱で、どビッチで、万年発情しているとんだ問題児である。
そのてん、双子の苺にはまだちゃんと理性がある。
兄のようにだれかれ構わず発情したりはしない。
同じ双子なのになぜこうまで違うのかわからないが、とにかく苺はこの自由奔放な兄に振り回されて、とばっちりを受ける毎日なのだ。
「あ、舛花だ〜」
それまで苺の隣をつまらなそうにダラダラと歩いていた菖蒲が声をあげた。
見ると、廊下の向こうからこちらに向かって歩いてくる男がいた。
舛花というその男は少し前まで菖蒲のお気に入りだったセックス相手だ。
彼自身も菖蒲同様性欲の塊みたいな男で、しょっちゅう菖蒲を部屋に招いては相手をしていた。
ところが舛花は菖蒲に気づくやいなや、くるりと踵を返すと足早に去っていく。
その背中を追いかけようと菖蒲が飛び出したが、苺がすかさず捕まえて引き戻した。
「もうあいつにかまうな」
「え〜なんで〜」
菖蒲は苺を恨めしげに睨みつけると、ぶぅっと頬を膨らませる。
「あ?こないだはっきり言われただろ?もう菖蒲とはしないって。つまり、客以外では本命としかヤんないってことだよ」
「え〜菖蒲は舛花が好きだったのに〜」
「仕方ないだろ。好きなもんはどうしようもないんだから」
苺はそう言うと、菖蒲を引っ張りながら歩き始めた。
遅れたらまた楼主に文句を言われかねない。
「ふ〜ん…」
菖蒲はまたつまらなそうに足を擦りながらついてくる。
そしてなんの前触れもなくポツリと呟いた。
「苺も好きな人いるんだもんね」
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