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その日、マツバは誰にも使われていない畳の部屋へ一人こそこそと潜り込んでいた。
誰も使っていないわりに埃っぽくないのは、何らかの懲罰を受けた娼妓が掃除をさせられているからだ。
マツバは誰もいないことを確認するとふぅっと息を吐き、懐からあるものを取り出した。
遡ること数時間前。
客を待つ張り見世で仲間の娼妓二人が話すのを聞いてしまったのがことの始まりだった。
「最近意識して締めないと客がイかなくなってきたんだよね」
「え!それってゆるくなってきてるって事じゃない?ヤバいじゃん」
「やっぱり?俺もなんとなくそんな気はしてたんだ」
「膣トレしたら?どうでもいい客にはどう思われてもいいんけどさ、やっぱり気に入ってる客にゆるくなってきたなって思われたらショックじゃない?」
「確かに」
二人は冗談っぽく笑いながら話していたが、その内容を聞いたマツバにとってはとても衝撃的だった。
ゆるんできている…
もしかして自分もそうなのかもしれない…
実際、マツバにはそこそこの指名客がいる。
肉体を売りにしている以上、身体が開くのは仕方のないことだ。
しかし、もしも身体の変化により西園寺を満足させることができなくなってしまったら…
彼は他の娼妓を試してみたいと思ってしまうかもしれない。
そうなったらきっとマツバは一生立ち直れないだろう。
そこで考えたのがトレーニングだった。
そう、娼妓仲間が話していた膣トレというやつだ。
早速アザミを見つけ出し事情を話した。
マツバの泣きつきに少し呆れながらもアザミがくれたのがインナーボールという膣トレ用の道具だった。
ドロップ型のボールの先端に棒状の取手がついたバイブのようなものだ。
アザミ曰く、これを挿れたまま運動をすれば括約筋が強化され収縮が自在に操れるようになるのだとか。
そうなれば、大抵の男は虜になるらしい。
虜…
西園寺を虜にできたらマツバにとって何よりも嬉しいことだ。
本来女性が使うものであって、男のマツバに効果があるかはわからないが何もしないよりはマシだろう。
何よりあの元ナンバーワンの娼妓アザミが言うのだから間違いないはずだ。
流石に自室ではできないと考え、こうして誰もいない部屋にやってきたのである。
「よし、頑張ろう」
マツバは一人呟くと、畳に座り込み部屋着の浴衣を捲った。
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