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楼主は煙管から灰を落とすとテーブルの上に置いた。
何げない所作なのに、そのひとつひとつに目を奪われてしまう。
菖蒲は楼主を年寄り呼ばわりした。
苺も前まではそう思っていた。
だが、実際ちゃんと見るとがっしりとした体格をしているし、皺こそ多いもののまだまだ衰えを感じさせない。
それに、粗雑な言葉遣いをしているくせに物を扱う手つきや姿勢が美しいのも最近の観察で知った。
しばらくして、楼主が徐ろに口を開いた。
「お前、俺が好きなのか」
単刀直入すぎる質問に心臓が口から飛び出しそうになる。
無神経な兄のせいでバラされてしまったが、まだ苺自身気持ちを伝える段階には到達していない。
そもそもいい返事がもらえるとは思ってないし、かといってフラれる覚悟もできてないのだ。
「もしかして菖蒲が言ったこと鵜呑みにしてんですか?はは、まじか、ダッサ」
言った後ですこぶる後悔した。
焦りからか、思ってもないことが口をついて出てしまったのだ。
だが、取り繕うにも今更何と言ったらいいかわからない。
自分の口の悪さがこんなところで仇になるとは思ってもみなかった。
すると突然楼主が苺の方へスタスタと歩いてきた。
表情はいつものかたいまま。
だが、距離が近づくにつれただならぬ気迫に圧倒される。
苺は思わず後退りした。
ところが数歩もしないうちに背中が壁にあたってしまう。
まさかさっきの苺の言葉に苛立って…
殴られる…!!
完全に逃げ道を失った苺はぎゅっと目をつぶりその時を待った。
しかしいつまで経ってもどこにも衝撃がやって来ない。
「……?」
違和感を感じた苺は恐る恐る瞼をあげてみた。
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