甘い痛み

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「わあ!!チョコレート!」 箱の中を見た瞬間、マツバは大きな目をキラキラと輝かせた。 仕切られた小さな部屋に一粒一粒おさめられたチョコレートは、金箔があしらわれたものや光沢があるものと色とりどりで、まるで本物の宝石のように見える。 「こんな上等なチョコレートいただいていいんですか?」 明らかに高級そうなチョコレートを前に、マツバは贈り主を見上げた。 「もちろんだ。マツバはチョコレートが好きだろう?まだ日本には出店していないものを用意してみたんだ。気に入ってもらえたかな」 贈り主の西園寺忠幸は、素直に喜ぶマツバの表情に目を細めて微笑む。 「もちろんです。見た目もですが、もうこの香りだけで美味しいのがわかります」 マツバは子犬のようにくんくんと鼻を鳴らす。 その姿に西園寺は更に目を細めた。 西園寺忠幸は、マツバにとって特別な客だ。 政界で活躍する若手議員の西園寺忠幸は、文武両道であり、容姿にプロポーション、性格、財力、どれをとっても優秀で非の打ち所がない男だ。 彼は十日置きぐらいの感覚で、マツバの好物を持って会いにきてくれている。 土産はもちろんありがたいしこの上なく嬉しいのだが、それよりもマツバは西園寺が自分に会いに来てくれることの方が何百倍、何千倍も嬉しかった。 マツバは男娼という身でありながら、この西園寺に密かに想いを寄せている。 今は客と男娼という関係だが、いつか自由の身となり西園寺に堂々と想いを伝えれられる日を夢見ているのだ。 「ほら、それを持ってこっちにおいで」 食べるのがもったいない気持ち半分、食べてみたい気持ち半分でチョコレートを眺めていると、西園寺に呼ばれた。 甘い声色と眼差しにほんのり頬を染めながら、マツバは指示された通り西園寺のあぐらの上に横向きに座る。 チョコレートの甘いにおいの中に、西園寺のにおいがまざると、そこはもうマツバにとって楽園でしかない。 西園寺は箱の中から一粒すくいあげると、マツバの目の前に差し出した。 「口を開けてごらん」 優しく命じられ、マツバは躊躇いながらも口をあ、と開けた。 繊細にカッティングされた真っ赤なチョコレートはベリー系のフレーバーだった。 フルーツの酸味とチョコレートの甘さが絶妙に混ざり合い、口の中で見事なハーモニーを奏でる。 しかも西園寺の手から貰ったチョコレートだ。 あまりの美味しさと多幸感にマツバは思わずほっぺたを抑えるとほぅとため息を吐いた。 「とても…美味しいです」 マツバの言葉に西園寺は満足気に微笑むと、もう一粒すくいあげた。
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