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「今日はなんの日か知ってるかい?マツバ」
西園寺に訊ねられ、お猪口に酒を注いでいたマツバは小首を傾げた。
「8月2日…ですよね。なんの日でしょう?」
祝日でもないし、西園寺の誕生日でもマツバの誕生日でもない。
思い当たる人物…といってもマツバが知ってるのは淫花廓内の人物だけだが、誰かの誕生日とかでもなさそうだ。
頭を悩ませるマツバを見つめながら、西園寺がフッ、と笑みをこぼす。
「8と2の語呂を合わせてバニーと読めないかい?」
西園寺の言葉にマツバは「ああ!」と声を上げた。
確かに。
バニーと読める。
「うさぎの日…なんだかかわいいですね」
マツバは頭の中で沢山のうさぎが飛び跳ねる姿を想像しながらふふ、と笑った。
「そうだな、うさぎはとても愛らしいと思うよ」
「西園寺様もうさぎがかわいいと思いますか?」
「もちろんだ。長い耳、丸い目、高いジャンプ力を持った愛らしい見た目はもちろんだが、警戒心が強いところや知能の高さ、意外にも頑丈なところもいいと思う」
「一度でいいからあのふわふわに触ってみたいです」
ここにいるのは池の鯉か、庭に飛んでくる小鳥くらいで、毛のある動物がいないのが残念だ。
小さなうさぎを撫でた感触がどんなものか考えるだけで、ふわふわの手触りが恋しくなってしまう。
すると、西園寺がにこりと笑った。
眩しいくらいのキラキラの笑顔だ。
「ちょうどよかった。実は俺もうさぎと触れ合いたいと思っていたんだよ」
その屈託のない笑顔の男がよからぬ事を考えていると気づいたのはそれからすぐの事だった。
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