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「アオキ、次は四番テーブルだ。客は前回ゴールド会員になった吉澤様。コーヒーとオプションでお子様ランチをご所望だ。失礼のないように」
「はい」
スタッフに告げられ、アオキは素直に返事をすると立ち上がった。
衣装であるふわりとしたピンク色の短いスカートとエプロンを整えるとスタッフからトレーを受け取る。
銀色のトレーの上にあるブレンドコーヒーからは湯気がたちのぼり、香ばしい豆の香りが鼻をくすぐる。
コーヒーのとなりには国旗のピックが立てられた小さなオムライスと一口サイズのから揚げ、ミニゼリーとパックのジュースが盛りつけられた新幹線形のお子様ランチが並んでいる。
これだけ見たらここが普通の喫茶店で、アオキはそこで働く普通のウェイトレスだと思うだろう。
だが、もちろんここは普通の喫茶店ではない。
「ほら、これも忘れるなよ」
スタッフはアオキにカゴを渡してきた。
そのカゴの中には、バイブやディルド、麻縄やコックリングなどの淫具がどっさりと入っている。
一般的なお子様ランチには必ずといっていいほど「オマケ」がついてくるもの。
子ども向けのミニカーやパズルなどが普通だが、ここではこの淫具が「オマケ」つまりオプションとなる。
そしてそれを客がウェイトレスに使用するサービスがこの淫花廓喫茶店の醍醐味なのだ。
アオキは見慣れた玩具カゴを受け取ると、四番テーブルへと向かって歩き出す。
スラリとした手足に細身の体型。
やや華やかさには欠けているものの、そこはかとなく滲み出る儚げな雰囲気と静かな物腰が良いと、一部の客たちから静かに支持されているウェイトレスだ。
そのため、アオキを指名する客は紳士的で落ち着いた人が多く、癖のある客にはあまり縁がない。
今から接客する吉澤という男も全国のあちこちに支店をかまえる書店の会長兼社長で、元々本好きとありかなり博識で物腰も穏やかだ。
無理強いは決してしない優しい性格ではあるが、毎回席に着いた途端、淫具での粘り気のある責めが始まるのでそれに耐えながら接客しなければならないのだが…
「今日は何されるんだろ…」
アオキはポツリと呟くの大人の玩具が盛られたカゴを見つめる。
と、目的の四番テーブルに着く前にあるテーブル席から突然怒号が響いてきた。
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