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「ふざけんじゃねぇぞ、てめぇ!俺ら客だぞ」
「金だけ取ってお客様の言う事が聞けねぇなんてこの店ぼったくりか?ああ?」
「いいからさっさと呼んでこい!!」
カーテンで仕切られたテーブル席から複数の声が聞こえてくる。
カーテンが閉まっているということはウェイトレス、もしくはウェイターが接客中なはずだ。
客と揉めてしまったのだろうか。
こういう時はすぐにスタッフを呼ぶよう指示されている。
アオキはすぐに来た道を引き返そうとした。
すると、突然目の前のカーテンが開き、中から人が転がるようにして飛び出してきた。
アオキと同じウェイトレスの制服に身を包んだ人物。
その顔はよく知っている顔だった。
「え…マツバ?」
アオキが訊ねると、名前を呼ばれたマツバが顔を上げた。
マツバはアオキと仲の良いウェイトレス仲間だ。
小柄でくりんとした愛らしいマツバは、その見た目と素直な性格から庇護欲を掻き立てられる弟のような存在として人気を博している。
いつもならアオキを見つけると小動物のように駆け寄ってきて愛くるしく笑うマツバだが、今日はアオキを見るや否や小さく「うっ…」と声をもらした。
そして華奢な肩をふるわせると長い睫毛に囲まれた大きな目からポロポロと涙を落としはじめた。
「どうしたの?なんかあった?」
アオキはマツバに訊ねるが、マツバは涙をこらえようと必死なせいか言葉が紡げないらしい。
「…っ…うっ…っ」
客を待たせているアオキだが、友だちを放っておくことはできない。
「とりあえず裏に行こう、ね?」
アオキはマツバに声をかけた。
ところが、アオキとマツバが去る前にマツバが飛び出してきたカーテンの隙間から男が顔を覗かせた。
「おい、いつまで待たせんだ早くしろよ!」
今時あまり見ないパンチパーマに剃り込みを入れたいかにも柄の悪そうな男は、マツバに向かって睨みと怒号を飛ばす。
しかしすぐにアオキに気づくと、ニタリとした笑みを浮かべた。
「なんだよ、連れてきてんじゃん。もしかしてそれサービス?気ぃ効くじゃん」
「え…?ちが…」
ガムを噛んでいるのか、くちゃくちゃと下品な音を立てながら男はアオキの腕を掴むとそのままカーテンの中へと引き入れた。
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