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見ると金髪の男の顔が後ろに倒れている。
さっきまでの横柄な態度から一変、男は情けなく呻き声をあげるとパンチパーマの男と同様目の前からいなくなった。
何が起こったのかわからないが、拘束が解けたアオキは、再び男たちに捕らわれないように咄嗟に身をかためる。
「アオキ…っ!」
すると、いつからいたのかマツバが駆け寄ってきた。
マツバは眉をへの字に下げると、その瞳から大粒の涙をポロポロとこぼしている。
そしてアオキに抱きつくと、しゃくりあげて泣き始めた。
アオキが通りかかるまでマツバはこの男たちの相手をしていたはずだ。
もしかしたら何か酷いことをされていたのかもしれない。
「大丈夫!?どっか痛い!?」
アオキが慌てて訊ねると、マツバはふるふると首を左右に振って答える。
「ちが…っ…あ、アオキッ…ごめっ…ごめんねっ…ぼく、の…かわりにっ…」
泣きじゃくりながら謝るマツバに、アオキはほっとしながら背中をさする。
「俺は大丈夫だよ、ちょっと服にコーヒーかかっただけだし。それよりマツバがなんともなくてよかった」
アオキの言葉にマツバが再びしくしくと泣き出す。
震える小さな肩を抱きしめていると、背後で大きなと物音とカップが床に落ちて激しく割れる音がした。
「なんだ、テメェぶち殺されてぇのか!?」
振り向くと、スキンフェードの男の襟首を掴み上げ今にも殴りかかりそうな男の姿が見えた。
この喫茶淫花廓のウェイターの中で一番の人気を誇る男、紅鳶だ。
しかし、本当に紅鳶かと一瞬戸惑ってしまった。
紅鳶はいつも冷静でどんなアクシデントにも瞬時に対応しているイメージがある。
客に対しても従業員に対しても同じで、その落ち着いた雰囲気と圧倒的な包容力が崩れるのを今まで一度も見たことがない。
だが、今目の前にいる紅鳶はいつもの彼とは違った。
血走った目でスキンフェードの男を睨みつけ、食いしばった歯の間から荒い息を吐いている。
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