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「紅鳶さん…」
アオキが呟くと、マツバがしゃくりあげながら小さく話し出した。
「ぼく、アオキが連れてかれたあとすぐにスタッフルームに戻って迷惑なお客様が来てるからすぐに来てほしい、今アオキが代わりに接客してくれてるって話したんだ。そしたらたまたまいた紅鳶さんがぼくの話を聞いた途端すごい勢いで飛び出して行っちゃって…」
「紅鳶さんが…?」
「うん…」
アオキはスキンフェードの男と睨み合っている紅鳶を見つめた。
紅鳶さんが俺を助けに飛んできてくれた…?
こんな状況で不謹慎とはわかっていても、もしもそうなら嬉しいと思ってしまう。
いや、違う。
紅鳶はきっとアオキでなくとも同じ事をしたはずだ。
彼は優しく、聡明で強い。
男らしくてかっこいい、みんなが憧れ頼れる正義のヒーローのような存在だ。
アオキだから特別、では決してないはず。
「てめぇいい加減この手離せっ!!俺は客だぞ!!金もらう側がそんな態度でいいと思ってんのか!?」
紅鳶の凄まじい剣幕に押されながらもスキンフェードの男がギャンギャンと吠え立てる。
そんな男とは反対に、紅鳶は至って静かな口調で訊ねた。
「…客だから何をしてもいいと?」
冷静に聞こえるがその声色は低く、得体の知れない威圧感をビンビンに感じる。
相手の男もそれを感じているのか一瞬動揺した。
しかし、愚かにも後に引けないらしく更に声を荒げ歯向かう。
「い、いいに決まってんだろ?あいつらもてめぇもそうやって金もらってんだろうが、ああ?てめぇらは大人しく俺ら客の言う事聞いてりゃいいんだよ!!バーカ!!」
「っ…ひどい…」
男の非道な言葉にマツバが再び涙を滲ませた。
アオキも同じ気持ちだった。
この喫茶淫花廓で働くスタッフたちは事情こそあれど、みんなそれなりにプライドを持って働いている。
お客様に満足していただけるよう誠心誠意真心を込めて毎日サービスに務めている。
研修期間もあるし、厳しい決まりもある。
決して簡単には務まらない仕事だ。
そんなアオキたちの日々の努力も知らずに、ただ客という立場を振りかざして好き勝手に振る舞うなんて本当に最低な奴らだ。
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