263人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
下劣な男たちに襲われそうになった時よりも、紅鳶に嫌われてしまう方がよっぽど苦しくて怖いのだ。
さっきまでは堪えきれていたはずの涙がいとも簡単に溢れ頬を伝っていく。
我慢強い方だと思っているが紅鳶のことになると全く違うようだ。
すると突然、甘い香りとともに体がぬくもりに包まれた。
アオキは目を見開くと、硬直した。
嫌われてしまったとばかり思っていたのに、紅鳶に抱きしめられている。
「悪かった。泣かせたいわけじゃないじゃなかったんだ。ただお前の無茶に肝が冷えて冷静さをなくした」
アオキの肩口から低い声が響く。
先ほどの唸るような声ではなく、いつもの優しく凛とした紅鳶の声だ。
嫌われていなかったと安堵し涙は引っ込んだアオキだったが、今度は別な意味でドキドキし始めてしまう。
「あ、あの…無茶…って?」
「マツバの代わりにあの客たちを一人でなんとかしようとしただろ」
なぜ紅鳶が冷たい眼差しや厳しい口調を向けたのか、アオキはようやく理解した。
「何もなかったからよかったが奴らが危険なものを持っていたりしたらどうするつもりだったんだ!?」
穏やかな口調を努めてはいるが、紅鳶が本気でアオキを心配して言ってくれている事がひしひしと伝わってくる。
そういえばマツバが助けを求めに行った際、紅鳶が真っ先に飛び出して行ったと言っていた。
咎められているはずなのに胸がジワリと熱くなる。
たとえアオキでなくとも紅鳶はそうしていただろうが、その気持ちが嬉しい。
「すみません…ちょっと友だち泣かされた事が悔しくてカッとなっちゃいました。でも大丈夫です。コーヒーかけられただけで特に何もされてませんし…」
何かされる前に紅鳶が助けに入ってくれたのだから。
「コーヒー…?」
アオキの言葉に紅鳶がパッと離れ、まじまじと見てきた。
その目がコーヒーのシミが広がった胸元へと注がれる。
最初のコメントを投稿しよう!