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アオキはしばらくぼんやりとしていた。
今起こっていることが現実なのか、それとも夢なのかわからなくなっている。
紅鳶が好きだと言った。
しかもアオキに向かって。
ずっと憧れていた雲の上のような人に好きだと言ってもらえる日が来るなんて誰が想像しただろうか。
いや、もしかしたら聞き間違えかもしれない。
あるいは別の人のことを言っているのかも。
考えれば考えるほど不安になってきたアオキは確認のため紅鳶に向かって訊ねた。
「あの…それって、俺のことを…ですか?」
すると思っていた反応と違ったのか、紅鳶はムッとした表情になる。
「…お前以外に誰がいるんだ」
たちまち体の奥からじわじわと熱がこみあげてきて、アオキの体温を上げていく。
「なんで俺なんかのどこが…!?」
落ちこぼれで半人前で、これといって取り柄のない自分に比べ、紅鳶は完璧人間だ。
もっと魅力的で彼に釣り合う人ならたくさんいるはずなのに。
紅鳶に好きと言ってもらえたのは飛び上がって喜びたい気持ちだ。
だが、自分には紅鳶に好きになってもらえるような要素がなくて尻込みもしてしまう。
すると、スルリと手が伸びてきて俯くアオキの顎がクイと持ち上げられた。
「アオキは努力家だ。一度決めた事は絶対やり通す強い意志がある。無茶をするのもそういう信念があるからだろう。それに友だち想いで優しい。見た目の美しさもそそるが、俺はお前の内側の美しさにも惹かれているんだ」
紅鳶の凛とした眼差しがアオキを真っ直ぐに貫いてくる。
美しいというならあなたの方だ…
アオキは心の中で呟いた。
こそこそ影から眺めているだけの臆病なアオキとは違い、紅鳶は真っ直ぐアオキに気持ちを伝えてくれている。
取り繕ったり誤魔化したりしない、紅鳶の真摯な姿。
そんな紅鳶にアオキも惹かれたのだ。
「俺も…俺もあなたのことが好き…ずっと好きです」
素直に告げると、凛としていた表情が少しゆるんだ。
フッ、と弧を描いた唇がゆっくりアオキの方へ近づいてくる。
一度、二度啄むようなくちづけの後、強く引き寄せられた。
深いくちづけは互いの吐息を奪い、理性を溶かしていく。
こうして、喫茶淫花廓の一番人気ウェイターと落ちこぼれウェイトレスは結ばれた。
しかし、この淫花廓で愛を育んでいく事がどれだけ大変かを二人は今後思い知らされるのであった。
続く…(かもね!)
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