ゆうずい邸の男たち

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淫花廓ゆうずい邸の中庭には、様々な花や木々が植えられてらいて、移り変わる四季を感じる事ができるようになっている。 その中でも一際立派な桜の木があり、その真下には赤毛氈(あかもうせん)の敷かれた大きな床几台(しょうぎだい)が置かれている。 そこはいつの時代からかわからないが、男娼たちの溜まり場のような場所になっている。 といっても、そこに集まれるのはトップ男娼たちだけ。 なぜそんなルールができたのか、いつからできたルールなのかはわからないが、中庭のその場所はゆうずい邸の男娼にとって特別な場所なのだ。 小鳥たちが囀る長閑な中庭に、スンッ、ヒュッ、スンッ、ヒュッ、という奇妙な音が響く。 漆黒は切れ長の目をさらに細くすると、奇妙な音が鳴っている方に向かって一言発した。 「鬱陶しい」 「え〜?なんか言いました?」 音を立てている青藍は、漆黒の冷ややかな眼差しなどどこ吹く風という顔で流れる汗を手拭いで拭う。 「さっきまで客相手に運動してたってのにまた疲れるようなことして何になるんだって聞いてるんだ」 竹刀を持ち、素振りで汗を流す青藍に向かって漆黒はやや強めな口調で返した。 競争率がばか高いこの淫花廓のゆうずい邸という場所で、若くして二番手を張っている青藍は健康的で爽やかで、とにかく元気いっぱいだ。 見るからに好青年、そして溢れ出る若さ。 体力が有り余っているのか仕事が終わったあとも素振りをして汗を流しているのだが、彼より年上の漆黒にとってそれは理解できない行動であった。 「漆黒さんもどうっすか?こうやって何も考えずに素振りしてると、邪気も祓われて、心も清く、真っ直ぐになりますよ!」 青空が似合う爽やかな笑顔で提案してくる青藍に向かって、漆黒はじっとりとした眼差しを返した。 「お前、俺が穢れてるとでも言いたいのか?」 「まさか!俺漆黒さんのことちょーリスペクトしてますよ!あ、紅鳶さんの次にっすけど」 貶してるのか褒めてるのかいまいちわからない青藍の言葉に漆黒は舌打ちをすると懐から煙草を取り出す。 「お前もなんとか言え」 マッチを擦り、煙草の先に火をつけながら漆黒はチラリと斜め下を見下ろした。 夕日に照らされたような色の髪をくしゃくしゃと掻きながら、紅鳶は床几台(しょうぎだい)の上でふわわとあくびをする。 「…元気があっていいじゃないか。お前もそんな毒吸ってないでやってみたらどうだ…少しは健康になれるんじゃないのか」 どこを見ているのかわからないぼんやりとした目。 肘をついて横になり、だらしなく着崩れた着物もぼさぼさの髪も気にする様子もない。 一番手の男娼が、実はこんなだらしない男だと知ったらファンも泣くだろう。
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