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「おい、青藍まさかこいつを連れて行くつもりか?」
「え〜なんすかぁ?」と首を傾げている舛花を、青藍は爛々とした眼差しで見つめている。
「やめとけ、多分戦力にならないぞ」
漆黒は助言したが、青藍は至極真面目な顔で語り出した。
「作戦があるんすよ。まず、紅鳶さんが偵察するじゃないですか。で、次に舛花を先に突っ込ませて掻き回す。その後に漆黒さんが首に噛み付いて、最後に俺がドン、と落とす(鬼の首を)作成です。どうですか?」
「あぁ…なるほど、確かにそれなら適任かもしれないな…」
「あぁ、それなら」
青藍の作戦に漆黒と紅鳶は頷いた。
一方ゆうずい邸のトップ男娼三人にじっと見つめらている舛花は、青藍の「作戦」が桃太郎の世界での話とは露知らず、とんでもなく真に受けていた。
「え?!なんすかなんすか、もしかして難攻不落の客でもいるんすか?!」
舛花は心の中で勝手に思った。
なるほど、トップ男娼のこの三人でも落とせない手強い客がいて、モテモテ百戦錬磨でピチピチ若者のこの舛花さんに助けてほしいってわけか…
なになに、まずは紅鳶(心の中では呼び捨て)が客の好み(好きな体位とかプレイとかか?)を聞きだす。
そして、この俺のぶっとい俺を突っ込んで掻き回しアンアン言わす。
で、漆黒のおっさんが噛みつき(噛み癖かなんかあるのか知らんけど)、口うるさい青藍が口説き落とすというわけか。
よくわからないところも多々あるが、つまりこの作戦は自分がメインの作戦なのだと舛花は思った。
ついに俺がトップになる時代が来た!!
この三人ももはやおしまい…引退だな!
勝手に世代交代を考えてニマニマする舛花だったが、突然何かに首根っこを掴まれた。
「こんなところにいやがったか、舛花ぁ」
ドスの効いた低い声が中庭に響く。
「げっ!!見つかった!!」
その声を聞いた舛花は振り返る間もなく顔を青くした。
「てめぇ、また規則を破って菖蒲とヤったな?他にも客からのクレームが二、三件きてるんだがどういうことか説明してくれるんだろうなあ、ああ?」
楼主は慌てふためく舛花が逃げないよう後ろから腕をまわし羽交締めにすると、火のついた煙管を顔に押しつけて脅している。
その姿は正に鬼のようだ。
「うわ、鬼だ」
「鬼だな」
「鬼だ」
三人は口を揃えてそう言うと、楼主に脅されて半泣きになる舛花を尻目にそっと中庭を後にした。
「ちがうんすよ!青藍さんと漆黒さんと紅鳶さんが難攻不落の客がいて俺に助けてほしいって言ってて…」
「ほう?で、三人はどこにいる?」
「え?ちょ、ちょっと、なんで誰もいねぇんだよ!!青藍さん、漆黒さん、紅鳶さんっ!?助けて〜!!」
こうして、猿は鬼に捕まりあつ〜い灸を据えられ、ゆうずい邸の中庭は平和になりましたとさ。
ちゃんちゃん。
end.
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