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「……またやってる」
行きつけの喫茶店〝ブルーム〟の入り口ドアを押し開けた羽鳥咲月は、中で繰り広げられているいつもの光景に苦笑いを零した。
咲月の入店でカララン、コロロン、と鳴ったドアベルの音に気づいて、中央の大きなテーブルを取り囲んでいた人々が一斉にこちらを向く。
「やあ、咲月ちゃん。仕事帰りかい?」
「あ、はい。そうです」
「お疲れさま~、毎日遅くまで大変だね~」
そこにいたのは近所に住むブルームの常連客で、昔から咲月を可愛がってくれている顔馴染みたち。年齢は咲月の両親と同年代、なんなら祖父母と同じぐらいになる者もいる。彼らは自宅で夕食を終えると、いつもこうしてブルームに集い、食後の珈琲や紅茶を楽しみつつ井戸端会議をしているのだ。
そして他愛のない雑談ついでにテーブルゲームに興じるのも、いつも通り。テーブルに広げられた即席のゲーム道具を見ると、つい苦笑してしまう。毎日同じゲームばかり繰り返していて、みんな飽きないのだろうか? と疑問に思う咲月だ。
「おかえり、咲月。なに食う?」
ご近所のおじさまやおばさまに今日の労働を労われていると、後ろから聞き慣れた声に話しかけられた。
肘にかけていた仕事用のバッグを近くのカフェチェアに降ろしながら振り返ると、〝ブルーム〟の店主であり幼なじみでもある立花風斗が奥のキッチンスペースから出てきたところだった。
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