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腕の中で眠る咲月に勝手に宣言した風斗は、顔を少しだけ傾けて咲月の首筋にちゅ、と吸いついた。顔を離すと肌の上にはくっきりと赤い花びらが散っていたが、これはあえて見える場所につけた大事な〝痕跡〟だ。
詳しくは調べてみなければわからない。だがもし咲月をつけ狙うような不届きな輩が傍をうろついているとなれば――その時は本気で、容赦しないつもりの風斗だ。
* * *
翌週、土曜日。
自分の仕事が週休の咲月は、風斗の応援要員を受けて喫茶店ブルームへやってきていた。
今日は季節の新作スイーツの発売日。小さくてもこういうイベントの日は来店客が増えるので、イートインもテイクアウトも人手不足になるためだ。
「そういえば、風斗」
「ん?」
ちょうど朝の掃除を終えた咲月は、表に出すブラックボードに今日のメニューを描いている風斗の横顔を見つめて、次に彼に会ったら伝えようと決めていた報告をふと思い出した。それは先日、風斗に現状を伝えて対処方法を相談していた件についてだ。
「この間の話だけど、やっぱり警察には行かなくて良さそう」
「へえ?」
説明を聞いた風斗が、チョークを動かす手を止めて顔を上げる。それから目を見開いて小さく首を傾げられたので、咲月も数度頷いてここ数日の事情を説明し始めた。
「あれから尾行されてる気配もなくなったし、非通知電話もかかってこなくなったの」
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