元ヤン幼なじみは過保護な溺愛を隠さない

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 咲月が風斗の自宅兼喫茶店であるここ〝ブルーム〟に泊まり、彼に報告と相談をした次の日も、当たり前のように非通知電話がかかってきた。  さらにその翌日には、会社を出た直後から職場の最寄り駅まで歩く間、十メートルほど離れた位置から誰かに尾行されているような気配があった。  しかしその次の日、つまり先週の金曜日からは、奇妙な違和感が綺麗に消え去った。非通知電話や無言電話もぱったりとなくなったし、後ろから尾行される気配も感じられなくなったのだ。 「他には? なんか変わったことあったか?」 「え? うーん……?」  風斗がブラックボードにカップケーキの絵を描きながら機嫌良く訊ねてくる。意外にも絵心があり可愛らしいイラストを描く手元を見つめながら、今度は咲月が首を傾げた。  しかし他の『違和感』など特に何も思いつかない。元々、自分でも『勘違いかもしれない』と思っていたほどなのだ。 「あ……。急に、って言えば、同じ部署の先輩が仕事をやめることになったけど」 「ふうん?」  最近の身の回りの大きな変化について考えていて、ふと思い出す。五日ほど前――今週の月曜日、同じ部署に勤めているある女性の先輩社員が、月末で仕事を退職することになったと報告してきた。実際に退職するのは来月になってからだが、短期間で仕事の引継ぎをしてあとは有給消化に入るらしい。  その事実に、咲月は密かに胸を撫で下ろしていた。
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