雨の"君"しか愛せない

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"君"との出会いは雨が降る日だった。 雨の中、悠長に歩いていた俺は"君"に会った。 "君"は傘もささずに雨にうたれていた。 「大丈夫ですか?」 そうやってさしていた傘の中に入れると、"君"は驚いた表情をしていた。 「コンビニまで送りましょうか?」 「だ、大丈夫ですから!」 逃げていった"君"。 まあ、その後俺の行動も後悔したんだけど。 また別の日に"君"に出会った。 その日は台風が来た日で急いで帰ろうとしたところに"君"がいた。 「大丈夫ですか?」 あの日の"君"と同じように目が丸くなっている。 「だ、大丈夫です」 「では、早く家に帰りましょう」 「そ、そうですね」 「送っていきます」 「そ、それはいや!」 「なんでですか?」 どこかに行こうとした"君"の腕を掴む。 このまま放っておいたら後悔するだろうから。 「いいから離してください!」 「せめて理由を教えてください」 口をつぐむ"君"。 雨音と暴風が俺らに当たる。 激しくてもそれでもずっと立ったまま。 「私はみんなを傷つけてしまうから。あなたのこともいつか傷つけてしまう。だから、誰かと仲良くなってしまってはいけないから…。」 泣きそうなその顔にいつの間にかキュンとする。 いや、キュンってなんだ。 「どんなに俺のことを傷つけてもいいから仲良くなってもらえませんか?」 「でも…」 「あなたの都合のいいように使っていいから、あなたが一人なのは悲しいです」 「…」 「よろしくお願いします」 「わかりました…」 二人が入れる傘の大きさではなかった。 けれども、雨にうたれている感じもしない。 「あの、ここまでで大丈夫です」 あるアパートの手前だった。 「こちらに住んでいるのですか?」 「そうです」 そして、"君"はアパートへ走っていった。 それを見送った俺は家に帰った。 傘一本を代償にして。
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