雨の"君"しか愛せない

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「今日はとても豪華なところですね」 「贅沢をしたいと思ったからね」 「少し気圧されてしまいます」 「じゃあ、早く食べて綺麗な夜景でも見に行かない?」 「そうですね」 いつもなら食べないコース料理を食べる。 ナイフとフォークを使って食べる。 拙いだろうその動きを"君"は見つめていた。 「私、ナイフとフォークを使ったことがなくて…」 「大丈夫だよ。逆に俺が手本で良かったのかって思ってる。」 「いえいえ、そんな」 左手にフォーク、右手にナイフを持って器用に動かす。 一回見ただけなのに、なぜ俺よりも上手く扱えるのだろうか? 「隼人さんは最近どうですか?」 「うーん。ぼちぼちかな。」 社会人である俺はまあまあな会社で過ごしていた。 対して"君"はまだ学生らしい。 大学院でなんかの研究をしているだとか。 すごいな、と感心した。 「私、隼人さんに会えてとても嬉しいです」 「俺もだよ」 「えっ、あ、ありがとうございます?」 困惑して真っ赤になった"君"。 そんな君がとてもとても好きだ。 だから、早く伝えたい。 この思いを伝えれば結ばれるのかはわからない。 けれども、伝えなかったら後悔するだろう。 「ごちそうさまでした」 「おいしかったね」 「はい。本当に美味しいものをありがとうございます。」 「そんなことないよ。それよりも行きたい場所があるんだ。」 「どんなところですか?」 「夜景がきれいで君も気にいると思う落ち着ける場所」 「それは楽しみです!」 いつのまにか一緒の傘の中で歩くその街。 静かな時も些細なことを話す時もどんな時も楽しくて、離したくないんだ。 受け取ってくれるかわからないこの思い。 受け取ってくれればすごく嬉しくて喜ぶのに。
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