雨の"君"しか愛せない

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「ここですか?」 「そうだよ」 そろそろ雨が止みそうだ。 いつも雨ばかりだからよかった。 「あ、あのさ」 「なんですか?」 キョトンとしたその顔。 いつのまにか好きになって、いつのまにか離したくなくて、いつのまにかその手を握りたかったんだ。 深呼吸をする。 「付き合ってくれませんか?」 花束もなんも用意してなくてごめんね。 手を差し出して握ってくれるのを待つ。 腰を直角に曲げているため前は見えない。 だから、君の顔も見えない。 「え、あ、隼人さん⁉︎」 「いつのまにか惚れていたんだ。君の隣にいたい。それだけなんだ。」 一回顔を上げて言う。 「わ、私でいいんですか…?」 「君がいいんだ」 俺の手を握る"君"。 「隼人さんは私の光なんです」 その言葉がとても嬉しくて"君"を抱きしめた。 傘は投げ出してしまった。 「は、隼人さん⁉︎」 「愛してる」 「えっ、わっ、そ、そんなことっ!」 真っ赤な"君"がいるだろう。 抱きしめるのを解放したら顔を隠してしまっている"君"がいる。 そして、"君"はいきなり言い出した。 「隼人さん、そろそろお開きに…」 「せっかくだし、もっと見ていかない?」 「で、でも…」 慌てている"君"。どうしたというのだろうか? 「わ、私!用事があるので!」 「何の用事?」 走っていこうとした"君"の腕を掴む。 「隼人さん。お願いです。離してください。」 「ごめん。それはできない。」 雨が止む。 それが"君"にとって、どれだけ嫌なことかこの時はわからなかった。 「隼人さん、ごめん、なさい…」 瞼が閉じた。 その瞬間、"君"の雰囲気が消えた。 咄嗟に腕を離し、呆然とする。 そこにいたのは君だった。 「へぇ、私を愛してくれるの?」 「だ、誰だ⁉︎」 「私はあの子の本当だし、嘘だし、半分だよ」 「はぁっ⁉︎」 「私を愛してくれるの?」 「君は一体なんなんだ!」 「だ・か・ら、あの子と同じ身体を持つもう一人のあの子。それが私。ねぇ、だから愛してくれるんだよね?」 「それはそれ、これはこれだろ!」 「でも、身体は一緒だよ?」 もうわけがわからない。 俺はなんとかその場から逃げ出した。 その日から、 俺の愛してる方を"君"、 意味わかんない方を君 とすることにした。
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