雨の"君"しか愛せない

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「隼人さん。おかえりなさい。」 「ただいま」 "君"の満面の笑みがとても美しいと感じる。 あれから"君"は大学院を出て、製薬会社に入社したそうだ。 「今日の晩御飯は頑張りました!」 「気になるな〜」 「ロールキャベツです!」 「おっ、いいね。寒かったしピッタリじゃん。」 「えへへ」 あーあ、ずっと雨が降ってればいいのに。 そうすれば、一生この"君"としか過ごさなくてよくなる。 それが一番幸せだ。 あんな君、二度と会わなくていい。 「あ、れ?今日は夜も雨の予報じゃ…。」 "君"に異変があった。 途端に窓の外を確認する。 雨が止んでいた。 「大丈夫だから。落ち着いて。」 「隼人さ、ん。ごめ、、ん…、、、。」 "君"が変わっていく。 ああ、また地獄が続くのかと思うと苦しくなった。 「やあやあ、久しぶりだね〜」 「…」 「無視なんて酷い。私のこと愛してくれてるんでしょ?」 「してない」 「うっわぁー。ウソツキ。」 「なんでだよ!」 「あの子には愛してるって何百回も言うくせに、私には何もないんだー」 「当たり前だ」 「同じ体なのに?」 そう言われると言い返せない。 "君"と同じ顔のはずなのに、どうしても好きとは思わない。 逆に嫌悪感と拒絶ばかりが充満していた。 「ロールキャベツはどうしたんだよ」 「食べたい?」 「もちろん」 「じゃあ、好きって言って」 「拒否する」 「じゃあ、ロールキャベツはいいんだ?」 「それはダメだ」 「じゃあ、好きとか愛してるとか言って」 「それは嫌だ」 「隼人もわかってるよね?」 「わかってる!けども…」 「じゃあ、正直になりな。あの子には黙っておいてあげるから。」 「す、好きだ」 「わあ、嬉しい。大好き〜!」 あーあ、なんだか自分のプライドが欠けた。 いや、砕かれたのか? 愛してる人の料理を人質に取るなんて最低だ。 やっぱりコイツとは相容れない。
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