雨の"君"しか愛せない

8/12
前へ
/12ページ
次へ
「おいしいね」 「ああ」 「私には冷たーい!もっと優しくしてよ。」 「無理だ」 「でも、あの子と結婚するなら私もついてくるんだよ?」 それに顔を顰める。 ああ、そうだ。 もう付き合ってから三年も経ってる。 自分の年齢も気にしてる。 そろそろ結婚するのが潮時だともわかってる。 けども、コイツがついてくることを忘れない。 「ねえ、なんで愛してくれないの?」 「"君"じゃないから」 「なんで?体は一緒だよ?」 「心が違うだろ」 「でも、笑顔が好きなんだよね?」 「それは"君"の心が反映されているからだ」 「じゃあ、私があの子の笑顔を真似したら好きになってくれる?」 「それも無理だ」 「本当に?」 「本当だ」 「試してみようよ」 「はあ?」 「隼人さん」 つい、その呼び名に顔を挙げる。 その笑顔は"君"のものだった。 だからか、君のはずなのに、"君"だと錯覚する。 ダメだ。騙されてはダメだ。 これは本物じゃない。 わかってる。わかってるはずなのに…。 「ね、好きでしょ?」 「ぐっ…」 「私わかってるから」 ニヤニヤとするコイツを許せない。 自分の心を掻き乱してぐちょぐちょにするコイツ。 「もっともっと私を愛してくれればいいのにな」 「そんなのができたらどれほどいいかね」 「あーあ、なんでうまくいかないんだろ」 「なんでだろうな」 "君"が作ったロールキャベツをちまちまと食べるコイツ。 こういう細かな癖も"君"と似ている。 「どうした?惚れた?」 「バカなこと言うなよ」 「なんだー」 その残念そうな声はもう俺には届いていなかった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加