雨の"君"しか愛せない

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「あっ、あ、雨だ!」 「ねえ、そんな言葉で私から逃れられるとでも思ったのかな。相変わらずかわいいな〜。」 頬をツンツンされる。それが気持ち悪くて仕方ない。 なぜなら、目の前にいるコイツは人間の皮を被った『バケモノ』だ。 「ねえ、私から離れないで。わかってるよね?」 いや、身体をこんなにガチガチに縛りつけられて逃げることができる人間は一握りしかいないだろう。 「お願いだから離してくれよ!」 「ねえ、どうしてわかんないのかな?お互い愛し合ってるんだからこんな関係は当たり前だよね?なんで逃げようとするの?」 「そ、それは!」 むやみやたらに口を塞がれ自暴自棄なその姿を見る。 早く、雨が降ってくれたなら…! 「意味わかんないや。"愛"で繋がってるんだから、縛りつけても痛くないよね。傷も治るよね。ご飯だっておいしいって感じて、一緒にいる時間が嬉しくてたまらないよね。私達、同じ感情を分かち合ってるよね?」 残念ながら無理な話だ。君とは無理だが、"君"なら好きだ。 そして、君はそろそろ"君"になる瞬間がくる。 雨音が玄関から聞こえてくる。うん。救いの時間だ。 「あっ、しゅーりょーかな。私も愛してくれたらいいのに。」 笑い声が空虚にひびく。早く、"君"になってくれ! 目を閉じた君は狂ったような壊れたような雰囲気が取れる。 そして、大好きな"君"になった。 「は、隼斗(はやと)さん!」 すぐさま俺の拘束を解いてくれる。 うん。大好きだなぁ、としみじみ思った。 「大丈夫ですか⁉︎」 「大丈夫だよ」 「ごめんなさい………」 "君"が謝ると雨音だけが鳴り響く。この部屋中に雨音だけが聞こえる。さっきまで君のヒステリックな声ばかりだったのに。 「いいよ。"君"が無事なら俺はなんでも。」 「そ、そんな!」 顔を真っ赤に染めた"君"。手で覆い隠しているが、耳は隠れていなくて真っ赤に染まっている。やっぱりそんな"君"が愛おしい。 そんな俺らの悲しくも辛い愛と恋のお話。
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