1-1読まなくていいのに(前)

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 回復しましたかあ、と仮眠室に設えた折りたたみ式簡易ベッドの上で薄い毛布を頭からかぶって眠っていた神経内科医は、もぞもぞと起き上がり、ふわあと先程のように大きなあくびをした。  そして、鼻歌混じりにベッド横に脱ぎ散らかしていた白いスリッポンを履いて、ぐちゃぐちゃになった毛布を丁寧に畳む。  報告してきたナースには、毛布を畳む医師は少ないというかほとんどいなかったため、ありふれた、何気ない行動であるけれども珍しいことと認識された。 「問診できそうですか?患者さん、ちゃんと睡眠時間とった?」 「は、はい!久しぶりに心が落ち着いたと喜んでいました」  へえ、と神経内科医は気のない感じで相槌をうつと、ぺたぺたとだらしない足跡をさせながら仮眠室のカーテンを開けた。  朝日が一気に部屋を照らし、彼らは眩しさに目の前がちかちかして、くしゃみを数回した。 「読むもんじゃなくてさ、吸うもんなんだよ。ってさっきも言ったね」  ボソッと繰り返す声には、ひとつまみぶんの、重さが混ざり込んで、吐き出されてきた。  
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