3-1 涙と言葉(上)

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 互いに、病気やその理由について深く訊かないことが暗黙の了解になっていて、だからこそ親しくできるのかもしれない。名前で呼び合うほうがいいかもね、とゆるい口調で吉備沢先生がアドバイスしてくれたことも効果があるようだ。 「病院のごはんだけじゃ足りなくて、これ、はんぶんこしよ」 「あはは、さすが育ち盛りだねえ。もらっていいの?」 「うん、だってサヤカちゃん昨日のお夕飯で、あたしの嫌いなにんじんがたくさん入った煮物、食べてくれたから」  恥ずかしそうにもじもじして、昨晩の秘密工作にお礼を言ってくれた梨花ちゃんが本当に可愛らしく、じゃあ遠慮なくとリンゴジュースを受け取る。 「しょーちゃん、じゃなくて吉備沢先生がここの先生でよかったあ。ママが世間体が悪いって外来に行かせてくれなかったから、探しまくったもん。お兄ちゃんのことばっかりなくせに、こういう時だけ口うるさいんだよ、ムカつく」 「お母さん、病院へ行くことを反対していたの?」  うん、と梨花ちゃんは眉間に皺をよせて頷く。  なんだか、知っている人に似ている気がしたけど、それよりも梨花ちゃんの話を聞く方が先だと切り替えた。 「しょーちゃんはね、もともと地元にあるメンクリの先生だったんだ」 「メンクリ?」 「メンタルクリニック。新しくできた病院で、でも大学病院の系列だからちゃんとしてそうかなって近所じゃとりたてて変な風に騒ぎもしなかったの。だから、秘密でこっそり通ってたけど……娘がそそのかされたとか、変な薬を飲ませようとしたってママが騒いじゃって……あたしがいない間に部屋に入って、薬と診察券見つけて、乗り込んじゃったみたい」  似たようなことがここでもあったなあと、浅井さんの騒動を思い出しつつ、私は身を乗り出す。 「お母さんって、クリニックに対して悪い印象を持っていたのかな?」
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