3-1 涙と言葉(上)

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「うーん、っていうか思い込みかも。自分の子供が近所のメンクリ通っているなんてバレたら、評判が落ちるから考えて欲しいとか、どうしてママやお兄ちゃんの邪魔するのよって暴れるし、わけわかんない。こうなったのも、メンクリ通うかって思ったのも、あんたのせいだっての」  はあ、とため息をついて包帯が巻かれた二の腕を撫で、梨花ちゃんがリンゴジュースを一口飲む。 「どうせあたしはオマケなんだから、空気読んで大人しくしてちょうだいじゃんて、よく自分の娘に言えるよね。お兄ちゃんだって、本当は……」  空気読んで。  耳にこびりついて、常に私を縛り付けていた言葉だ。  私は職場だけれど梨花ちゃんは家という、逃げられない、もっとも生活の拠点である場所でその言葉をぶつけられている。  大人しくして。  空気読んで。  オマケなんだから。  なんだかずいぶんと勝手で、ワガママで、窮屈だ。  そう考えられるようになったのは、しょーちゃんこと、吉備沢先生が担当医になってからだろう。  昔の、あいつに、あいつらに囲まれて這いつくばるような気持ちで生きてきた頃の私がもし梨花ちゃんに出会っていたら……。 「サヤカちゃんは、きょうだいとかいるの?」 「え?わ、私はお姉ちゃんがいるのよ。もう結婚してるから、あまり会っていないけど。子供もいるわ」 「いいなー、あたしも早く結婚したーい。彼氏いないけど」 「まだいいよー、梨花ちゃんは。あはは」 「だって早く家出たいもん、息苦しくて」  息苦しい。  痛いほど理解できる言葉だなと、胸がつまる。  私と違って、お姉ちゃんは普通だ。  誰とでもうまくやっていくし、結婚して、子供も三人いる。  旦那さんと、旦那さんの家族ともうまくバランスとって、しっかりしている。
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