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私はいつもお姉ちゃんと比べられて、鈍臭いとか、要領が悪いと馬鹿にされる。時には負け犬だなんて時代錯誤な言葉を、親戚から酔った勢いで放たれて泣きそうになりながら、みっともないからと笑ってごまかしていた。
息苦しい、確かにそうだ。
そんなことないよ、サヤカもしっかりしてるよとフォローするお姉ちゃんの声もなんだか、見下しているように聞こえてしまうほどに。
「お兄ちゃんだって、本当は、しょーちゃんの……」
「え?」
すん、とお兄ちゃんの話をしようとした梨花ちゃんの顔を覗き込もうとしたときだった。
「梨花!」
ガサガサと音をさせ、手提げつき紙袋をさげた学ラン姿の少年が病棟に入ってきた。背が高く、輪郭を含めて全てのパーツが丸みをおびている顔立ちと、心配そうに梨花ちゃんの名を呼ぶ彼は、大股でずかずかとこちらにやってくる。
なんとなく、メジャーリーグで活躍している日本人選手に似ているなと、そんな印象を受ける佇まいだ。
「梨花、お前またこんな……」
「お兄ちゃん、なんでここに?」
妹の腕を見て、悲しそうに声のボリュームを落とすかたわら、学ランの襟で隠れた首筋が、もぞもぞと蠢く。
「ちくしょう、全部、全部あいつのせいだ……!」
襟をおさえながら、梨花ちゃんのお兄さんが毒づいたと同時に掠れた声が、その部分から聞こえてきた。
……ウルサイ。
……アア、ウルサイ。
……カアサン、ウルサイ。
「いい加減うんざりで、俺もこっそり抜け出してきた。しょーちゃん、じゃなくて吉備沢先生に治療して欲しかったから」
梨花ちゃんはそっと手を伸ばし、お兄さんの首に触れる。
「サヤカちゃん、お兄ちゃんも私も、もう限界なんだ……」
シュルシュル、シュルシュルと包帯を解き、梨花ちゃんは傷口をあらわにしはじめる。
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