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3-2涙と言葉(中)
……モウイヤダ。
……ダイキライダ。
……タスケテアゲテ、タスケテクレ。
梨花ちゃんのお兄さんである龍彦くんの首元にできた唇から、息が、声が、悲しげ掠れた音をカサカサ、コソコソと漏らして呟きをつらんwlこ
私の目にいまここでうつるものが、普通なら、日常生活を過ごしていたならきっと「ありえない」カテゴリに入るだろう。
けれども過呼吸で運ばれて、入院し、担当医になった吉備沢先生の治療を受ける日々を過ごすことになってからしというもの、やや日常になりつつある情景であったため、思ったよりも心に覚える驚きが少なかったから、そこにむしろうろたえる。
いや、うろたえているのはむしろ私よりも、梨花ちゃんのほうだ。
着替えの入った紙袋を受け取ると、それをぐっと胸にかかえて、梨花ちゃんは「どうして……?」と涙声を絞り出す。
龍彦くんはぐっと右手で拳を作り、甲でずずっと頬に伝う涙を拭うと、ゆっくりと口を開いて静かに答えだす。
「ごめんな、梨花には言っていなかったけれど……中学に入ってからだ。母さんが俺のことばかり気にかけて、梨花をだんだんと後回しにするようになってから、ここだけ痒くなって、ある日いきなり、ばっくりと裂けたんだ」
「裂けたところが、唇になって、喋るようになったって……こと?」
梨花ちゃんが確かめるように問うと、龍彦くんは首肯する。
「梨花がないがしろにされいぇいるにもかかわらず、母さんの手前、何もできなかった。注意したって聞き入れてくれないし、俺がうるさく言えば次は、梨花に隠れて嫌がらせをするかもしれないからって、父さんともよく話した。でも、解決できなくて、そうしたらだんだんと、こうなったわけだ。化け物見たいだろ?」
化け物?
龍彦くんが?
どうして、どうしてそんな……。
「……化け物なんかじゃ、ないよ。君は」
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