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「俺の成績と進学と、部活で活躍することだけが生き甲斐であれこれ動いているんです。妹の梨花に対してはすごく雑で、娘なんかどうせ出ていくし、龍彦は後継だから大事なのよって二言目にはそればかり。バイトなんかするなとか俺には言っておいて、梨花のは校則で禁止されているのに働けって隠れてバイトさせたうえに給料も全部奪い取って、俺に小遣いだって渡してくるんです。まあ、あとで梨花に渡しちゃうんですけど」
溜め込んできた泥を吐き出すように、龍彦くんは声を段々と大きくさせながら、けれど淡々と話し続ける。
首元では合いの手を入れるように、小さな唇がパクパクと、声にならない声を発していた。
「ここへ来たことに、お母さんは?」
「梨花を連れ戻してくれるって、思い込んでいまあう。役立たずだ、入院するなんて、その間はバイトできないんだからもったいないって、酷いでしょう?優しくすることないって俺を止めようと、玄関で通せんぼされましたけど……初めて言い返しました」
「え、お兄ちゃんが?」
梨花ちゃんが、目を丸くする。
「俺って言うより、こいつかな。母さんはギャアギャアわめくと面倒だから、今まで言いなりだったけれど……さすがにもう、俺も我慢できなくて……そうしたら、こいつが思い切り叫んだ」
小さな唇を指さして、龍彦くんが苦笑する。
「うるせえ、クソババアって……」
「えー?」
梨花ちゃんが、ぱっと表情を明るくさせる。
よほどスッキリしたのだろう、と私は察した。
「母さん、目を丸くして膝から崩れ落ちてた。ぎゃーって泣いている声がしたけれど、構わずに出てきた。帰りづらいけれど、俺も吉備沢先生に診察して欲しかったし、ちょうどいいかなって思ったんだ。本当に……嫌な思いさせて、ごめんな。梨花」
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