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1-2読まなくていいのに(後)
呼吸が落ち着いた患者、山本サヤカのもとに会社の人事担当ですと称する中年女性が訪れたときのこと。
不機嫌そうに眉間へ皺を寄せ、まるで粗探しでもするかのようにジロジロと院内を見渡す視線が蛇のような印象を与える女性の片手には、A4サイズの茶封筒が握られている。
皺だらけになっている春物らしきくすんだ水色のアンサンブルニットと紺色のスカートはどことなく窮屈そうで、口からは「なんでこんな大袈裟にするのよ」とか「うまくやったはずなのに、どうして勝手なこと」など不平不満がぶつぶつ、ぶつぶつと小さな声で呟かれる。
「早くしなさいって言ってんでしょ、ったく、ほんとに使えないわねえ、ここのナースって。こっちだって、仕事もあるし、暇じゃないんだから......」
ナースステーションのカウンターをかつかつ、こつこつと指先で叩く勢いがますなか、ナースたちは作業の手を止めて、妙な緊張へと巻き込まれる。
「すいませぇん、ここ病院なんですよぉ。お手柔らか......あはは、やっぱり来たかぁ」
「な、なななな、なにあんた、馬鹿にしてんの?どこのバイトよ!」
「えー?バイトじゃないですしぃ、どっから見てもドクターですけどねえ」
神経内科医の吉備沢がふわふわとしていて、艶のない淡褐色をした髪を束ねていた、色褪せたデニム地のシュシュをさらりと外す。
「ここにいるってわかってんだから、山本さんをさっさと出しなさいよ!連れて来てちょうだい、あんた医者なんでしょ?」
はあ、と吉備沢は小首をかしげると「できかねますねえ」とやんわりした口調で断る。
「なんで?理由を説明してくれないと、こっちも納得できないんですけど?」
今にも噛みつきそうに問う女性をぽわんと口を開けて、吉備沢は見つめる。
「ぼーっとしていないで、早く連れて来なさいよ!」
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