3-2涙と言葉(中)

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 深々と頭を下げて梨花ちゃんに謝る龍彦くんに、私は胸がぎゅうと締め付けられるような苦しさを覚える。  梨花ちゃんはもちろん、龍彦くんだってやっぱり、なんにも悪くない。  ふたりとも無力なゆえに家族によって、母親の勝手な決めつけに嵌め込まれて、感情しだいで振り回されて、生きてきたんだから。  その結果、傷口に浮き上がった「モノ」を介して感情を吐き出すように、なってしまったんじゃないか。  いや、そうでしか吐き出せなかったんだ。  なのにどうして、ふたりで申し訳なさそうな、縮こまった姿で佇んでいなくてはいけないの?  あなたたちを、ここまで追い詰めた相手が悪いんだから、むしろ助けを求めることは、当然でしょ? 「……なんでよ、なんであなたたちが……」 「サヤカちゃん?どうして泣くの?」  梨花ちゃんに問われ、ハッとして頬に手を当てる。  視界が滲んで、頬が濡れている。  投影してしまい、涙腺が緩んだのだろうか。 「ごめん、なんかこう、いい言葉が出なくて……大人なのにごめん」  ついつい、謝り癖がついてしまったせいで鼻水をずずっと啜りながら、二人に謝る。  つい先日まで、職場で息をするように「すいません」や「ごめんなさい」を発してきたせいだ。  周囲はそんなふうに身を縮めるわたしを見て安心して、そして威張っていた。  手を差し伸べる相手もいないなか、ひとりで息苦しさと、背中がずしりと重くなっていくしんどさに耐えながら。  悪くないのに謝って、我慢させられて、言いなりになって、傷つけることしかできなくなっていく、まだ幼さが残る無力なふたりを縛り付けている相手は、母親は、どこまで欲深いのだろう。  あいつらと、一緒じゃないか。  手際よく仕事しても、媚びてると言いがかりをつけて謝らせる。
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