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私はその足音に聞き覚えがあって、嫌でたまらなくて、息苦しさを覚えた。
「龍彦ちゃん、龍彦ちゃんどこ?ねえ?返事してよぉ!」
声が耳に入り込んだ途端、私はベッドに、ヘナヘナと座り込む。
「なんだよ、突破してきやがったか……」
そう吉備沢先生が言うと、龍彦くんが「ふざけんなよ!恥ずかしいなあ!」と声を荒らげた。
「龍彦ちゃん!ねえ、こんなとこにいるって見つかったら……」
開けっ放しになっていたドアから、私たちの姿を見つけた人物。
忘れようにも、忘れることなどできない相手。
息苦しさを押しつけて、追い詰めて、吉備沢先生にも追い返されたくせに、どこまで図太いんだろう。
「あんた、あんたたちが、あんたたちがやったんでしょ!」
「浅井さん……」
震える声で、私は肩パッドつきで、ターコイズブルーにペイズリー柄という南国の布で作ったようなテラテラしたスーツをパツパツな身体に巻きつけるようにして着ている女の苗字を呼んだ。
「恥さらし!とっとと退院してバイトでも身売りでもしなさいよ、龍彦ちゃんが、龍彦ちゃんがいい暮らしできないでしょおおお!」
飛びかかりそうな勢いでやってくる浅井さんから守るため、私は座ったまま、ぐっと梨花ちゃんに抱きつき、ふたりの間に滑り込んだ。
「離れなさいよ、役立たず同士が!だから嫌なのよ、若い女って、ああくさい、女くさいったら!」
ぎゃあぎゃあわめく浅井さんの肩を、吉備沢先生がポンと叩く。
「……黙れよ、ここ、病院だから」
「ぐ、ぎゅ、う、うる、うるさ……」
「患者に何かあったら、許さねえって、言ったよな?」
聞いたことがない低い声で、ぐっと肩に爪を立て、浅井さんを睨む吉備沢先生が、いつもとは違う気迫を醸し出していた。
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