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問いかけた私と吉備沢先生の間を割り込むようにして、浅井さんが「うるさい!部外者のくせに!」とひときわ大きな声をあげて、どすん、どすんと足踏みをする。顔が真っ赤になっていて、汗をダラダラとかいて、赤ん坊の化け物のように短い手足を動かす程、ピチピチになって今にも破れそうなペイズリー柄の生地がぎゅっと嫌な音を立てていた。
「部外者部外者って、しょーちゃんは私の診察をしてくれている先生だよ?」
「そうだよ母さん、俺だって梨花から話を聞いて、相談しようって思ってここに来たんだ。どうせ、父さんにも隠すし、母さんは見ようとしないじゃないか」
「梨花がいけないのよ!それからあんたも!心の病気とか大袈裟なんだから、ただ弱いだけじゃない!息が出来ないとか、リスカとか、わざとらしい!恥ずかしいって思わないの?せめて金稼ぐか、目の前から消えるか、黙っていうこと聞くかしてよ!」
大袈裟なんだ、と私のそばで悲しそうに梨花ちゃんが言った。
「これでも、大袈裟なの?母さん」
シュルシュル、シュルシュルと梨花ちゃんが包帯を解く。
くだらない、と浅井さんは病室を出ようとしたが、五十嵐先生がそうはさせなかった。
ガチャリと、後ろ手に鍵をかけ、ドアの前に立ち塞がる。
「これでチャラにさせろよ、神経内科。こっちはナイトドクターで睡眠不足なうえに、すっかりノセラレちまったんだからイラついてんだよ」
「了解でぇーす。ねえねえ梨花さんの苗字ってぇ、浅井だったよねえ?それでえ、お母さんの名前はねえ、なんだったっけ?」
じわりと、苦しさが足元からせりあがり、胸元でどっしりとたまっていく。
苗字なんか知らない。
見たこともないし、改めて確かめたこともない。
でも、梨花ちゃんがさっき浅井さんを、浅井さんを……。
「浅井志津香、母の名前は浅井志津香です」
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