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「いやあ、申し訳ありませんができかねますねー。というか、お引き取り願えますか」
相変わらずの、やんわりした口調で言う吉備沢に対し、女性はますます感情的になっていく。
「はあ?こっちは用事があって来てあげたんだけど!ねえ、ぼーっとしてないでどうにかしなさいよ、なんなのあんた?頭おかしいの?」
「普通ですけど、いつもこんな感じですしー、ねえ、みーんな?」
吉備沢がナースステーションの方に呼びかけると、ナースたちはみな、うんうんと頷く。
「別に暴れるとか、そんなこと考えちゃいないんだから、どうにかしてよ!今後の出社や、休暇の種類に関して説明するだけなんだから!」
女性がさらに大きく、刺々しい声で反論する。
午後の穏やかで、柔らかな陽射しに温む廊下に緊張が走り、通りかかった他の医師もびくんと肩を震わせた。
大丈夫だよぉ、お仕事に戻ってくださいと吉備沢はやはり、穏やかに呼びかけた。
その態度に、女性の方が苛立ちを隠せないらしく、わざとらしい大きなため息をつき「どうせ手術とか、でかい病気じゃあるまいし、わざとらしい」などと持論を展開した。
「会話できるかどうか判断するのは僕を含めて、担当医ですよぉ?ため息なんてよく酸素循環されていますねぇ、そうやって彼女の呼吸も奪い取っていたのかなあ?」
疾しいことがあるのか、女性はぐうっと、ほんの一瞬だけ唇を噛み締めたあと、ぎょろりと澱んだ目を見開く。
「な、あ、あなたなんて失礼なこと......」
「空気読め空気読めって言っておいて、あなたはぜんっぜん読んでいないんですね。担当医なんで、ますます致しかねます。ゴメンネ」
「あいつ、どんなこと吹き込みやがったんだよ!いいから連れてこいよ!」
「やだーこわーい」
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