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翌朝、楓花さんは目の下を真っ黒にして、のっそりと部屋から現れた。
「……あの……、デートの概念って何でしたっけ……」
手にはスマホをしっかり握りしめている。
まるで一晩中『デート』を検索していてゲシュタルト崩壊でもしたかのような形相だ。とても今から元気に遊びに行けるような状態には見えない。
けれど、彼女は機械的に朝食を済ませると、外出の準備をした。重苦しい雰囲気に、ほぼ会話もないまま繁華街まで来たところで、俺はおずおずと切り出した。
「ええと、どこか、行きたいところ、ありますか?」
楓花さんは少し考えた後、ぽつりと答えた。
「……そういえば、醤油が切れそうでした」
(……そうきたか)
俺は腕を組んで、うーん、と悩んだ。
確かに、日用品を買いに行くというのも夫婦っぽいかもしれない。いつもは楓花さんが仕事帰りとかに買ってきてくれてしまうので、今までそんな機会もなかったのだ。
けれど、今日は記念すべき初デートである。それなのに醤油を買ってとんぼ返りでは目も当てられない。
とは言っても、睡眠不足な彼女に無理をさせられないのも確かで……。
(あー、ほんと、どうしたらいいんだ……)
俺はこっそり天を仰いだ。実は、今朝から、血走った目の楓花さんを見て気が引けていたのだ。
もともと、無難に映画とウインドウショッピングでも、と予定を立てていた。彼女の嗜好を知るきっかけにもなるし、映画なら、上映中に眠れるかもしれないから丁度いいとも思った。が、そうしたらそうしたで彼女は自分を責めそうである。
それに、あそこまで真剣に考えている相手に対して、そんな適当でいいのだろうか。動きやすいからといつもパンツ姿の楓花さんが、今日はスカートをはいているのだ。こんないい加減なプランで、彼女の気合と期待に応えることができるのか。
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