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第1話 出逢い
その日、集中的な豪雨が降った。
北の端にある村に、小さな領地があった。
その地を納める領主には嫡子がおり、名を、雪彦といった。
雪彦はその日、領地である森へ足を運んでおり、狩を楽しんでいたのだが、途中豪雨に見舞われ、その場を動けなくなってしまっていた。
「やれやれ。どうしたものか。これでは先ほど狩った野うさぎも、濡れて不味くなってしまうな」
雪彦の腰には弓で射た野うさぎが提げてあった。背には矢の入った矢筒と、弓が掛けられている。
この大雨では森を出ることもままならない。
雪彦は立ち往生を余儀なくされていた。
「もし、もし、そこの若君」
ふと、背後から女子らしき透き通った高い声が、雪彦の耳に届く。
「何者か?」
雪彦は問う。その姿は木々が邪魔をして目視ができない。
女子の声だけが彼の耳に届くばかりであった。
「こちらはまだ雨足が弱くございます。少しこちらで雨宿りをしてはいかがでしょう? 直に、この雨は止みましょう」
姿が見えないのは森の木々が生い茂っているからであろうか。はたまた、他に理由があるのだろうか。雪彦は、とりあえずこの雨が凌げるのならなんでもいいと、声のした方へと歩を進めた。
少ししたところで、声の主と思われる女子の姿を捉えた。
同時に雨足が弱くなったように感じた。
「……あら、随分と濡れてしまっていますね」
その女子は、不可思議な雰囲気を纏っていた。
その女子は、岩の上に腰をかけて休んでいた。彼女の腰かける岩のそばには、白く小さな愛らしい花が一面に咲き誇っていた。
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