第5話 土地神の使い

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第5話 土地神の使い

 ひとでないのなら。  あやかしでないのなら。  いったい彼女はなんだというのか。 「この屋敷の者は如何(いかが)した」 「この屋敷は人のものではございません。もとより人はおりません」  その声は酷く、弱々しかった。 「そなたは?」 「……わたくしは、この森の使でございます。あいにくと、主様は現在この森を留守にしており、代わりにわたくしが土地の守護を仰せつかっております」 「土地神の……使い」 「左様(さよう)でございます。この土地の土地神様は雨を司る雨神(うじん)でございます。あなた様のお国が旱魃(かんばつ)しているのは、おそらく雨神様がこの森を留守にしている所為かと……」 「なんと」  そんな理由があったのか。道理で、最近雨が降らないわけだ。  この地に土地神がいたことも、その神が雨を司っていることも、そして現在この地にいないことも、すべて理解はできたが、理解したところで領地に雨が降ることはない。  旱魃した国を、守ることができない。雪彦は己の無力さに肩を落とした。 「ではどうすればいいのだ」  雪彦は頭を抱えた。  すん、と白く細い線が目の前に現れた。お葉の足であった。  お葉の足は、うっすらと透けているように見えた。 「お葉どの……?」 「……若君様のお国が旱魃してしまっているのは、我が主様が原因。責任を取り、わたくしがこの地に雨を降らせましょう」 「可能なのか?」 「不可能では、ありません。ただ、今のわたくしには、力が足りません」 「わたしにできることはあるか?」 「……あります」  それはなんだ、と雪彦が言う前に、その口は何かで塞がれた。  お葉のによって、塞がれたのである。
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