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 謙二はこの時間が少しでも続けばいいと、そんな事を言った。 「意地悪」  彩子はそれでも楽しそうにそう言って、謙二より少し前を歩いてあちこちを見ては、「あ、そうそう」と言って歩を進めた。  区画整理されきっていない古い道は、迷路のような所がある。一度歩いたつもりでも、時間帯によって見え方が違う。謙二は彩子の後をついて歩きながら、自分の歩いて来たこれまでの人生の道のりはまるでこの街並みの様だと考えていた。隘路があり、行き止まりがあり、迷ったと思った道が結果的に近道だったという事もあった。  夢乃の人生は、夢乃の歩く道だった。行き止まりは引き返せばいい。迷ったとしても選んだ道は、その時歩くべき道なのだ。 「迷子って何だか、楽しいわね」  彩子は謙二に振り返り、その日一番の笑みを浮かべた。 「前向きだよな、きみは」 「それを取ったら、あたしじゃなくなっちゃうから。あ、あれ?」
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