3人が本棚に入れています
本棚に追加
1.
うららかな春の休日だった。
力強くなり始めた陽射しをまだ冷たい風が心地よく冷やし、謙二の頬を撫でていく。謙二はこの季節が好きだった。光が溢れ、人も緑も生気に満ちて輝いているように思える。
待ち合わせはいつもこの東京メトロ・四ツ谷駅の前の広場だった。離婚する前は、家族でどこかに出かけるのにいつも通った場所だ。別れた妻の彩子と娘の夢乃は、今は目黒に住んでいる。謙二だけが、四谷坂町に買ってしまった中古マンションに今も住んでいた。随分くたびれてきたが、手を入れる気にもならずそのままにしている。それは謙二自身についてもそうだった。
最初のコメントを投稿しよう!