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夢乃がまだ幼く、一番手がかかる頃に仕事にかまけて彩子に任せきりになった。仕事を抱えた中での子育てに、寄り添えなかった。寄り添わなかったと言ってもいい。夢乃の事はとても大切に感じていたが、同時に畏怖もあった。それは謙二の幼少期の記憶とどこかで繋がっていた。謙二の父もまた、謙二の成長に背を向けたまま、家を出た。
だから謙二は、子供を育てるという事、自分が親になったという事に対して、どこか臆する所があった。彩子と結婚した時にも、そんな事を彼女に話した事がある。それでも夢乃が産まれ、親であるという現実に直面し、ぶつかって、結果二人には溝が出来た。
今となっては、これで良かったのだとも思う。元より、父親失格だったのだ。こうして月に一度、夢乃と束の間、時間を共にする。それだけでも贅沢な事だった。
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