新天地

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新天地

「はぁ~~……」 最悪なことがあった5年前のできごとを夢に見てしまった。 地獄のような目覚めだ。 今さら、苦い思い出なんて、思い出したくなかったのに。 そこそこ希望の企業に就職したのはいいけれど、忙殺すぎて趣味の声優オタク活動、中でも朗読劇やライブなどのイベント……現場に行くことがなかなかできず、イライラが募りに募ってしまったので、退職金が発生するという5年目まで我慢し、満を持して退職した。 今後は新しい仕事……これまでよりゆったり時間を作れるようなもの……を見つけて行けたらいいと思っている。 今朝は、そんな記念すべき初日だったというのに、あんな夢見では、先行きが不安すぎる。 そうは言っても、しばらくのニート的生活を満喫すべく、しょっぱなから現場の予定を入れた。 「わ~~~~~~! きゃなちゃんだ! 久しぶりだね~~~!」 目の前でパニエを何枚も重ねたふわふわなスカートの衣装に身を包んだ彼女が、きゃな(わたし)に愛想を振りまく。 「みのりん! 会いたかったよ! 今日もかわいいねぇ!」 「ありがとう。わたしのことをかわいいって言ってくれるきゃなちゃんだいすき」 「わたしもみのりんだいすきだよ~」 声優の需要が高まっているこの時代。 マルチな才能を求められる声優が増え、彼女、笹山実乃梨(通称みのりん)もそのうちのひとりだった。 俗にいう地下アイドルが多く所属する事務所で、彼女はそちらの活動もしつつ、声優としても花を咲かせている。 言ってみれば、会いにいけるアイドル声優なのだ。
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