新天地

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「きゃなちゃん、いつにも増してとってもきれいだね!」 「そうかな? 最近、心労がなくなったからかも。おかげで忙しくなくなったから、しばらくはみのりんの出勤日には来るね」 「うれしい。SNSもちゃんと更新するからね、次また会えるの楽しみにしてるね。それじゃ、今日のチェキはどうしよっか?」 みのりんのところの現場は、30分のライブのあと、握手会、またはチェキ会が開かれる。その参加権利は、ライブのチケットとは別に、CD等のグッズの価格によって1〜3枚手に入る券が必要となる。だいたい1,000円で1枚の換算だ。やはり人気があるのは後者なので、その日の動員数次第で制限がかけられることもある。 今日は平日ということもあって、それほどの入りではなく、まったりとした接触ができ、久しぶりだったわたしにはありがたい。 わたしがみのりんを応援しようと思ったのは、下條(今後はと呼ぶ)が結婚を報告してから数日後のことだった。 ただでさえプライベートで精神がズタボロなのに、加えて仕事でも疲れ果ててしまっていた。退勤後、帰宅するべくなんとか体を前に進めながらいると、彼女の所属する事務所が経営しているライブハウスの入り口がふと目に入った。 そこはいつもの通り道で、これまで気にすることはなかったのに、その日は何かに導かれるように中へ入った。 そして、その奥から聞こえてきた声が、わたしに光をもたらした。 まさか、自分が同性に惹かれるとは思いもしなかったが、言葉は悪いがのときのように、推しにお相手ができても、応援したい気持ちが揺らぐことはないと思ったら、気楽にやっていけそうで都合がよかった。 現場に駆けつけるファンは男性の方が圧倒的に多いけど、その分珍しい女性のファンは推しの印象にも残りやすく、気軽に話しかけてくれる。男性のファンも、女性のファンが贔屓されても逆恨みはしてこない。わたしにとって、これ以上ないくらい本当に楽しい現場だった。
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