タイムリミット 12分!

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* * *  都市部を抜けると、ハイウェイに出た。道は、くねくねと曲がっている。 「旦那、いつもよりも、距離が遠いでやんすね?」  青年が尋ねるが、男性の声は「運転に集中しろ」とだけ返答した。 「あっしの脳は、並列処理(マルチタスク)が可能でやんすよ」  ギアをチェンジし、アクセルを踏み込む。車は、さらに加速した。 「やべっ!」  急カーブで曲がり切れずにガードレールにぶつかりそうになる。  青年は、巧みなハンドルワークで通過した。 「気を付けろ!」  ヘルメットから発せられたのは、男性の怒声だ。青年はビクッと身を固めた。 「破壊は決して許されん。本末転倒だ。分かっているだろ」 「旦那。そんなに怒らなくても、分かってやすって。『急げ』でも『道は外れるな』、それは、注文の多い何とやらってやつでやんすよ」  青年は苦言を呈しつつも、スピードは決して落とさない。 「情報を表示してくれでやんす」  指示を出すと、フロントガラスに、残エネルギー量、残り時間など様々の情報が表示された。出発して3分が経過していた。残り9分。 「半分の距離まで来たでやんす。楽勝、楽勝」  青年は、調子よく鼻唄まじりでつぶやく。 「難関はここからだ、トンネルに入るぞ」  男性の声が聞こえた瞬間、車は真っ暗なトンネルに突入した。 「抜けたら、幅が狭い悪路。あと、5秒で抜ける。準備しろ」  青年はハンドルに着いたスイッチのいくつかを操作した。 「悪路はバギーに限るでやんす!」  スポーツカーだったその車は、みるみる形を変えていく。ものの数秒でバギーに変形していた。トンネルの先に明かりが見える。 「ひょー」  トンネルを抜けると、バギーは宙に浮いた。  砂山の上から飛び出したのだ。5メートルほど落下。青年は車体に身を預けて衝撃に耐えた。 「イテテ。旦那、相当な悪路でやんすな」  そう言いつつ、すぐにアクセルを踏んだ。 「時間をかなりロスしそうでやんす」  青年は、ハンドル操作に集中した。時間の表示を頻繁に確認する。  ――急いで、現場に到着しなければ。間に合わないと、人命に関わる。  表情から笑みが消えていた。  想像以上の悪路。青年は焦りを感じていた。山道を抜けるのに掛った時間は5分。 「大きな扉が見えましたぜ。どうすれば?」 「関門だ。時間がないので穴をあけて突破するんだ。ただし、穴は最小限にしろ」 「レーザーを使っても?」 「許可する」  青年がハンドルに備えたスイッチを操作すると、バギー前方から閃光が走る。扉の下に小さい穴があく。 「穴が小さすぎるぞ」  男性の声を無視するように、車は速度を維持したまま突っ込んだ。 「破損は最低限がルールでやんす!」  バギーは、扉の直前で縦に長細く伸びた。太いうどんを長く伸ばしたようだった。先端が穴を通過すると、バギーは小さい穴をスルッと通過した。
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